夏の夜に、宇宙論
2008-07-22


皆様、暑中お見舞い申し上げます。猛暑のなか、当ブログを読んでいただき、ありがとうございます。

本日は、最近、ちょうど読み終わった本、「ビッグバン宇宙論」(上・下)(サイモン・シン著 青木薫訳 新潮社発行)をご紹介したい

本書は、ギリシャ時代から今日まで、人類が、「宇宙とはどんな構造をしているのか?」を、思索してきた歴史について書かれた本である。

一般向けの科学系宇宙論という分野に関しては、たくさんの本が出版されていて、私も色々読んできたが、その中でも本書を特にすぐれた本だと思うのは、私の印象でいうと、

1正確な科学的知識の紹介、 
2著者による、一般読者向けのわかりやすい解説、 
3登場している科学者たちの情熱と人生が生き生き描かれていること、

という3つの要素が、見事に融合しているからだ。さらに、翻訳も非常にすばらしい。

だから、本書は、私のように、1をまったく理解できないものでも、2と3の部分は十分に楽しめるようになっていて、読み終わったあと、科学系宇宙論研究の現状と、それに関わった数多くの科学者たちの奮闘の歴史をよく理解できるようになっている。

宇宙論――それは学問の中でも、高級な花のようなものだ。つまり、宇宙論を研究したからといって、それが地上の生活にすぐに何か役に立つわけでも、応用がきくわけでもなく、膨大なお金と時間がかかるばかりで、儲かるわけでもない(でも長期的に見ると、この分野の研究なくして、科学技術の進化もないはずであろう)。

それにもかかわらず、たくさんの科学者たちが古代から現代まで、宇宙の構造の研究に取りつかれている。そして、よく知られているように、科学者たちは、しばしば政治と宗教に弾圧され、翻弄されたあげく、幽閉されたり、処刑されたり、その著書が発禁になったりと、大変な困難を経験してきた。

著者は、科学者たちのそういった情熱と挫折と時代背景、さらには異なる理論を「信仰する」科学者たちの間の人間的対立も、とても生き生き描いているので、読んでいる側も、科学と科学者へのある種の敬愛と親近感の念をいだいてしまう。

科学者だけでなく、私たち素人も、おそらく、多くの人が、海や山に出かけた夏の夜に、星空を見上げたとき、ふと一瞬、神秘感やワクワク感やいろいろな疑問(たとえば、「ああいった星には、どんな生き物が住んでいるのだろうか?」など)を感じたりした経験があるのではないだろうか。

宇宙に美や神秘を感じること、それはたぶん、宇宙に起源がある私たちの遺伝子の喜びのような気がする(実際、本書の中で紹介されているある科学者は、人間の体は、星くずでできていると言っている)。その神秘感、そのワクワク感が、宇宙論研究の根源にはあり、科学者たちは私たちの代表として、生涯をその情熱に捧げているのだと私は思っている。

私は、こうした科学系宇宙論だけでなく、宗教系・形而上学宇宙論(念のために言えば、ここで「宗教」という言葉で私が意味するのは、信じるための宗教や科学を弾圧するような宗教ではなく、「究極の真理とは何か?私とは何か?」を探求する宗教である)のほうも、よりいっそう愛好しているので、科学系と宗教系の様々な宇宙論を組み合わせて、自分なりの宇宙論を考えるのが、暇なときの娯楽となっている。

目を閉じれば、そこは自分だけの別宇宙――皆様にも、「my宇宙論」、お勧めします。


その他お勧めの本

「ニューメタフィジックス」ダリル・アンカ著 VOICE発行

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[科学]

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