「正義感」と「承認欲求」の危険なタイアップ
2022-03-07


ここ一年くらい、「正義感」と「承認欲求」が危険な状態でタイアップした事件が目につく。

最近の事件を列挙してみれば:

*自分がかかっていた精神科のクリニックに放火した男性。
*自分の母親の主治医を殺した男性。
*自分が東大に入れそうにないとわかって、東大の前で、通行人を切りつけた高校生。
*仕事や人間関係がうまくいかなくて、電車の中で油をまいた若者。
*自分の作品が盗作されたという妄想と怒りで、有名なアニメの会社に放火した男性。(これは数年前の事件)。

そういう犯罪を犯す男性たちがその犯行の動機を語るとき、そのあまりに幼稚な動機に、世間は驚くものだ。「こんな幼稚な動機で人を殺したり、殺そうとしたりするなんて、信じられない!」それが普通の人たちの感想であろう。

しかし、人間の理性がぶっとんだ(私の言葉で言えば、強度の「動物園状態」)マインドに共通していることは、「私は絶対に正しく、私を認めないお前たち(世の中)が絶対に間違っている。だから、正しい私が、間違っているお前たちを懲らしめてやる!」という強力な思考パターンで、それが彼らを暴力へと駆り立てる。彼らのマインドの中では、自分の主張を認めない世間は絶対悪として自分に対立する「敵」で、何としても、復讐し、懲らしめてやらないと気がすまない。こういった「動物園状態」では、彼らの正義感と承認欲求に比べれば、人の命などまったく重要ではない。

もちろん、そういった人たちの背景には、すべてがうまくいかない彼らの絶望的人生の長年の不幸の蓄積があることは、間違いない。

今、世界を揺るがしているロシアによるウクライナ侵攻は、そういったマインドの世界規模の拡大版であり、人間の理性がぶっとんだ独裁者が起こしている人質事件であると、私はそう理解している――プーチン・ロシア大統領がウクライナを人質にとって、世界に要求を突き付けている。その要求とは、「もっとロシアの主張、ロシアの存在を認めろ!」と。彼は「ロシアの邪魔をすれば、核兵器を使うことも躊躇しない」とまで宣言する。ここまで主張する背景には、強力な正義感と、欧米にロシアの力を誇示したいという切ないまでの承認欲求、そしてさらに、ロシアという国がかかえる格差、経済的貧困、表現の不自由という苦境がある。プーチンさんがロシアの象徴だとしたら、彼の暴挙はロシア国民全体の長年の不満とストレスの発散と見ることもできる。プーチンさんは独裁者にありがちな極端な妄想(ロシア大帝国の建設)という催眠にかかって、自国の国民をさらなる貧乏と苦境へ追いやっている。

もちろん国と国の戦争は、双方の間に「お前のすることは許しがたい」という長年の「正義感」の感情の蓄積があるはずで、すべての対立と戦争は、この感情から生まれる。その感情の暴走の前では、先ほども書いたように、人間の命などまったく重要ではない。

こういう事態を見るとき、いつもため息がでるが、「人類は自分の意志で戦争を始めたり、止めたりすることはできない」というグルジェフ(ロシアの20世紀の神秘思想家)の考えに納得しているので、一方で仕方ないのだとあきらめてもいる。

最近も久しぶりに、『ベルゼバブの孫への話』(平河出版社)

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[社会]

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